透明な幽霊

父と母と夕食をとっている時、母の知り合いの女性の話になりました。

その女性は小学校低学年の息子さんを持つお母さんで、息子さんにキッズ携帯を持たせているのですが、学校からの帰宅時に携帯でお母さんに連絡をするように何度言っても、息子さんは遊びに行くことで頭がいっぱいで連絡することをきれいに忘れてしまい、電話連絡をくれなくて困っている、という話でした。そしてその話の流れで、私が小さかった頃の話になりました。

当時父と母は自営業を営んでおり、学校が終わると私と弟はその店に行っていました。低学年の頃は母が店から迎えに来ていたのですが、3年生ぐらいからは、私と弟だけで行くようになり、電車の切符代をもらって帰宅後店に通っておりました。

で、3年生だった私が、ある日、店に「待ちあわせをした弟が駅に来ない!」という電話を駅からかけてきた、という話が母の口から出たとたん、私の目からいきなり涙がぼろぼろぼろと!

思わず私が言った言葉が「私、かわいそう!」

いやー、自分の目からあんな感じで涙が出たことが驚きでした。私自身はそんな話すっぱりさっぱり忘れていたのです。忘れてしまっていて、その時の不安感とかをリアルに思い出したわけではないのに、涙がぼろぼろぼろーっと。

オカルトチックというかSFチックなお話になりますが、『過去という時間軸の中で「弟が来ない!」という恐怖と不安に満ちた時間に引っかかってしまって逃げられなくなっていたその時の小学校3年生の私を、今の私が見つけ出して合体した感じ』といいますか『実は透明な幽霊のような存在になってずーっと私のそばにいた小学校3年生のその時の私の存在が体の中に入ってきた感じ』というか、そんな感じでした。

一瞬、今の自分が今いる時間の位置がよくわからなくなって、
「私、そのまま弟とはぐれたままやったっけ? あ、ちゃうわ、今、弟、ちゃんとおるねんから、ちゃんとどっかで会ったんやわ」
とか思う始末。

面白いことがあるもんだなぁ。
泣いたあと、えらくすっきりしたのがまた面白かったです。
ひょっとしたら、小学校3年生のその時の私は、泣きたいのを我慢していて、今の私が泣くことで、なんかが成仏したかもなぁ。