ひとりぐらしを振り返る

2年半ほど前、私はひょんなことから一人暮らしをすることを決意しました。

いままでずっと実家暮らしで家を出たことがなく、自分は一人暮らしをすることなんてできないと思っていた人間でしたので、なにをどうすればいいのかさっぱり分かりませんでしたが、とにかくまず物件を探せ、ということになりましたので、住む場所を考えることから始めました。

とにかく先に物件を決めろ、という事なのですが、その時私は無職でしたので、それは無理だと考えました。逆算してだいたいこれぐらいの収入だったら一人暮らしできそうという収入は出せるものの、収入が確定しないまま家賃を決定したところで破たんするにきまっていると思ったのです。で、職を決めたら具体的な家を決めるとして、住む地区だけでもだいたい決めようと思いました。

しかし、場所ってどう決めるんだ?

方位に詳しい方とかサイコロを振ってくださる方に決めてもらうしかないんじゃないだろうかと、私は安直に頼ろうしたのですが、頼ろうとした方に「中途半端にそういうものに頼らず、頼り切るのなら自分の感覚に頼ったほうがいいですよ」とアドバイスをいただきまして、自分で探すことにしました。

私の目的は「一人暮らしをする」ではなく、「一人暮らしを続ける」ということでした。我が家の歴史をちょっと紐解いてみて理解していたことは、人は縁のない場所に根付くことはできない、ということでした。地縁か人の縁かどっちかがないと無理だと思いました。では縁のある場所ってどこなんだ、と思い、地図をコピーしてつなぎ合わせて、親せきの住んでいる場所と自分と家族がこれまで関わりを持った場所を記入していきました。その当時よく神社にお参りに行ってたので(当時就職活動がうまくいってなくて、あまりに状況が変わらないので、毎日お参りに行ってお百度になるころには季節も変わっているだろうから状況も変わっててほしいと思ってました)、神社とそこでお祭りされている神様の名前も記入しました。

自分の住んでいる実家の地区の雰囲気は好きでした。じゃあ街の雰囲気のどこが気に入ってるのかしら、私が今まで住んできた場所と共通しているのはなにかしらと、いろいろ考えました。街として気に入ってるところは、地区の祭祀がきちんと行われているところでした。だったら新しく住む場所もそういうところがいいな。祭祀のはっきりしていなさそうなところは難しいな。

自分の実家の家のどこが好きかな。自分の部屋のどこが好きかな。

仕事が終わった後はへとへとになって家に帰ってくるんだろうから、帰ってきたら「帰ってきた!」って感じが欲しい。じゃあその感じが得られるのはどこかなと思いました。就職活動の面接の後、ぼんやり電車に乗って風景をみていたら、ある川を越えた瞬間「あ、帰ってきた」という感じがしたので、西の端をその川にしました。西が川だから東も川にしようと、東の端も川にして、だいたいの地区ができました。


それから1か月ほど経って就職が決まりました。


就職が決まってから10日ほど経ったある日の夕方、不動産屋さんの物件案内の立て看板をみていた私に、若い男の子が声をかけてきました。不審がる私に、男の子は、私が看板を見ていた不動産屋に勤めているといいました。看板を照らす電気をつけに来たとのことでした。

「良かったら物件みませんか?」

その男の子に不動産屋さんに案内され、2日後に物件を観に行って、3件回った物件のうちの一件目が今住んでいるお部屋です。なんかナンパみたいな声のかけられ方したけど、そういう意味では運命のナンパだったなぁ。

不動産屋さんは、会社の社員間の雰囲気がものすごく悪すぎて、10分間事務所にいて社員間の会話の様子を見てるだけで心が折れ、二度とこの不動産屋は選ばないという不動産屋さんでしたが、声をかけてくれて男の子には、私が物件を決める最後まで縁があって、とてもよくしてもらえました。(男の子は私が物件を決めて契約した翌月には別の不動産屋さんに転職してゆきました)

結局あれほど住む街に悩んだのに、選んだ場所は、幼少期自分が住んでいた街でした。土地勘がありすぎて、決定するのに勇気がいったよ!(不動産屋さんの男の子には「土地勘があるのになんで悩むんですか。ふつうないから悩むんですよ」といわれました)

 

当時はすごく長く感じたけど、一人暮らしするって決めてから就職まで一か月だったのかー!早かったなぁ。